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インシデントが減らない本当の理由 ― ITIL 4で読み解く「運用設計」と「再発防止」の仕組み化

クラウド化・サービスの複雑化・マイクロサービス化が進む現代において、
インシデントの数がなかなか減らないという課題は、多くの企業で共通しています。
監視ツールの導入、自動化の推進、組織編成の変更など、対策は実施しているのに
「同じ種類の障害が繰り返し発生する」「現場の対応が疲弊していく」という状況は後を絶ちません。

その根本的な原因の多くは、技術よりも「運用フローの設計」や「判断基準の整理」にあります。
ITIL 4は、こうした“運用設計の穴”を明らかにし、改善の方向性を示してくれるフレームワークです。


■ ITIL 4におけるインシデント管理の位置づけ

ITIL 4では、インシデント管理は単なる障害対応ではなく、
「価値ストリームの中で最も重要なレスキュー機能」として定義されています。

その目的は、サービスの影響を最小化し、できる限り速く正常運用に戻すこと
ただし、ここで注意すべきなのは、“速さ”だけが目的ではないことです。

インシデント管理は、問い合わせ管理・問題管理・変更管理などの
他のプラクティスと連動することで初めて、組織全体の品質向上に貢献します。


■ なぜインシデントは減らないのか?4つの構造的問題

1. 「分類」が粗すぎて改善につながらない

インシデント分類が粗いと、どこに再発防止が必要なのか見えません。
「サーバ障害」「ネットワーク障害」のような大分類のみでは傾向が掴めず、
改善のための示唆が生まれません。

  • エラーの種類(Timeout / Connection Refused / メモリ枯渇 など)
  • 発生箇所(サービス / API / ミドルウェア / DB)
  • 顧客影響の有無・範囲

分類の精度は、インシデント管理の「分析力」を決定します。

2. 対応ログ・ナレッジが「使われる形」になっていない

インシデントログやナレッジは、蓄積しているだけでは不十分です。
再利用を前提とした構造になっていなければ、改善にはつながりません。

  • 検索性が低く、情報が埋もれる
  • テキスト中心で、手順がイメージしにくい
  • タグ付け・構造化がされておらず、状況別に参照できない

AIによる自動応答・一次対応を進めるためにも、ナレッジの「整備」が重要です。

3. 問題管理に接続していない「点対応」になっている

インシデント管理だけでは、原因の根絶はできません。
ITIL 4では、インシデント管理と問題管理は明確に役割が分かれています。

  • インシデント管理:サービスを早く復旧させる
  • 問題管理:根本原因を追及し、再発防止を行う

両者が連携していないと、復旧はするが問題が残り続ける「いたちごっこ」になります。

4. 現場の判断基準が属人化し、対応品質がバラバラ

現場でよく起きる属人化には、次のようなパターンがあります。

  • エスカレーションするタイミングが担当者ごとに違う
  • 復旧の定義(”どこまで戻ればOK”)が曖昧
  • 優先度判定が人の経験に依存している

これらは、ITサービスの「可用性」「信頼性」に直結する重大なリスクです。


■ ITIL 4を基盤とした改善アプローチ ― 現場で使える4つの施策

1. 分類体系(カテゴリ)を再定義する

改善を成功させるための第一歩は「分類の見直し」です。
分類が正確であれば、傾向分析・再発防止の質が一気に高まります。

効果的な分類のポイント:

  • サービス別 / 技術別 / 原因別 の3軸で整理
  • 過去半年のインシデントログを基にカテゴリを再構築
  • 分類変更を変更管理で管理し、毎年アップデート

2. ナレッジの「構造化と自動化」をセットで行う

ナレッジの品質を上げるには、構造化が必要です。

  • FAQ形式・手順書形式・トラブルシューティング形式を明確に分ける
  • スクリーンショット・図解を含めて視覚化する
  • AIと連携し、一次回答の自動生成につなげる

3. 問題管理との接続フローを定義する

「何件のインシデントが問題管理へ昇格したか」を KPI として管理すると、
改善活動が定着します。

推奨フロー:

  • ● 件数の多いカテゴリを「問題候補」として自動抽出
  • ● SLA/SLO違反のインシデントは必ず問題管理へ接続
  • ● 問題管理は“原因の深掘り”ではなく“再発防止の実行”にフォーカス

4. 判断基準(エスカレーション・復旧定義)を明文化する

「担当者によって対応が違う」問題を防ぐには、
判断基準のテンプレート化が有効です。

  • 優先度定義(Impact × Urgency)の明確化
  • 復旧判定のチェックリスト化
  • エスカレーション条件をRACIで可視化

■ ITIL 4を活用した改善ロードマップ(90日モデル)

● Phase 1(0〜30日):現状分析と分類の再設計

  • インシデントログの分析
  • カテゴリ設計の見直し
  • 改善対象サービスの優先順位付け

● Phase 2(30〜60日):ナレッジ整備と判断基準の可視化

  • ナレッジの再構成(FAQ / 手順 / TS)
  • 復旧定義・優先度・エスカレーション基準の策定

● Phase 3(60〜90日):問題管理との接続と改善サイクルの構築

  • インシデント → 問題管理への連携フロー定義
  • 週次・月次レビューの仕組み化
  • KPI(再発率・一次解決率)の測定

この90日で、インシデント管理は確実に「点の対応」から「仕組みの運用」へ進化していきます。


■ まとめ ― インシデント管理の本質は「仕組み化」である

ITIL 4が示す通り、インシデント管理は“復旧の速さ”だけで評価するものではありません。
むしろ、再発を防ぎ、運用の再現性を高め、属人化を排除することこそが価値です。

クラウドが複雑化し、サービスが高速に進化する時代だからこそ、
運用品質を左右するのは「設計」と「仕組み化」です。

株式会社FourthWallでは、ITIL 4を基盤とした運用設計、
インシデント管理の改善、ナレッジ整備、問題管理プロセス構築などを支援しています。
現場レベルから全体最適まで、一貫した改善をご希望の企業様は、
ぜひお気軽にご相談ください。

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