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クラウド運用は「見える化」できて初めて前に進む ─ Observability(可観測性)の本質

クラウドの活用が進む中で、運用チームからよく聞く悩みがあります。

  • 障害の原因特定に時間がかかる
  • どこがボトルネックになっているのか分からない
  • ログは大量にあるが、分析に活かしきれていない
  • サービスごとのダッシュボードはあるが、全体像が見えない

これらの課題に共通しているのは、「システムの状態が十分に観測できていない」という点です。
つまり、Observability(可観測性)が不足している状態と言えます。


■ 1. Observability(可観測性)とは何か?

Observabilityとは、簡単に言えば「システム内部で何が起きているかを、外から理解できる状態」を指します。
単なる「監視(Monitoring)」より一歩進んだ概念であり、次の3つの要素を軸に考えます。

  • Logs(ログ):イベントやエラー、処理内容などのテキスト情報
  • Metrics(メトリクス):CPU使用率、レスポンスタイム、エラー率などの数値情報
  • Traces(トレース):分散システムにおける処理の流れ(どのサービスを経由したか)

これらが点ではなく「線」としてつながっているかどうかが、Observabilityの重要なポイントです。


■ 2. なぜ今、Observabilityが重要なのか?

マイクロサービス、サーバレス、マネージドサービス、SaaS…。
クラウド環境では、1つのユーザー操作が裏側で多数のサービスやコンポーネントをまたいで実行されます。

その結果、次のような状況が生まれがちです。

  • 監視ツールは導入しているが、サービスごとにバラバラ
  • アラートは飛んでくるが、「本当の原因」がどこか分からない
  • 障害発生時、まず“犯人探し”から始まってしまう
  • 本番で起きた事象を再現できないため、改善が難しい

これらはすべて、Observabilityが不十分な状態で起こる典型例です。

クラウド時代の運用改善は、感覚や経験ではなく「観測データ」から始める必要があります。


■ 3. 監視とObservabilityの違い

「監視はしているので大丈夫」と言われることも多いのですが、
従来の監視とObservabilityには次のような違いがあります。

● 監視(Monitoring)

  • あらかじめ決めたしきい値を超えたらアラート
  • CPUやメモリ、死活監視などの“状態チェック”が中心
  • 想定した異常には反応できるが、想定外には弱い

● Observability(可観測性)

  • システム内部で何が起きているかを「後からでも説明できる」状態
  • ログ・メトリクス・トレースが連携しており、原因追跡がしやすい
  • 想定していなかったパターンにも対応しやすい

Monitoringが「異常を検知する仕組み」だとすれば、
Observabilityは「なぜそれが起きたのかを理解するための仕組み」と言えます。


■ 4. Observabilityを阻害する典型的な要因

現場でよく見かける“可観測性を壊す要因”をいくつか挙げます。

  • システムごとにログの形式・出力ルールがバラバラ
  • メトリクスの命名や粒度が統一されていない
  • トレースIDが設計されておらず、処理の流れを追えない
  • 監視ツールが部門ごと・サービスごとに乱立している
  • ダッシュボードが「作られて終わり」になっている

これらはひとつひとつは小さな問題ですが、
積み上がることで「運用の見えなさ」に直結します。


■ 5. Observability強化のステップ

Observabilityを高めるには、次のステップで進めるのがおすすめです。

Step 1:観測したい対象を定義する(What to Observe)

  • ユーザー体験(レスポンス、エラー率など)
  • ビジネス指標(注文数、コンバージョンなど)
  • システム指標(リソース利用率、遅延、スループットなど)

Step 2:ログ・メトリクス・トレースの標準化

  • ログフォーマットの統一(タイムスタンプ、レベル、トレースIDなど)
  • メトリクスの命名ルール、粒度のルールを決める
  • 分散トレーシングの仕組みを整備する

Step 3:統合的な可視化基盤を構築する

  • ダッシュボードで「全体像」と「深掘り」の両方を見られるようにする
  • アラートは“本当に対処が必要なもの”に絞り込む
  • 開発・運用・ビジネスが共通で使えるビューを用意する

Step 4:改善サイクルに組み込む

  • 障害対応の振り返りで観測データを必ず活用する
  • リリースごとにSLO/SLAへの影響を確認する
  • 定期的な“可観測性レビュー”の場を設ける

■ 6. Observabilityがもたらすメリット

可観測性が高まることで、次のような効果が期待できます。

  • 障害対応のスピード向上(原因特定の時間短縮)
  • 予兆検知によるダウンタイム削減
  • リリースの安心感向上(影響範囲が把握しやすい)
  • 運用の属人化解消(データに基づく判断)
  • 開発と運用の連携強化(共通の“事実”を見ながら議論できる)

Observability は単なる技術トレンドではなく、
クラウド時代の運用DXにおける土台そのものと言えます。


■ 7. まとめ ─ 可観測性は「運用チームの武器」になる

クラウド運用における多くの課題は、
システムの中で何が起きているかを十分に観測できていないことから生まれます。

逆に言えば、Observability が整えば、
トラブル対応も、改善も、意思決定も、すべてが一段階レベルアップします。

株式会社FourthWallでは、クラウド運用ガバナンス、Observability設計、
ログ・メトリクス・トレース基盤の構築、運用DX支援を一気通貫でご提供しています。

クラウド運用の「見えない不安」を解消したい企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。

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