クラウド活用が一般化した今、企業が抱える最も大きな課題のひとつが、「運用の複雑性」です。
クラウドは使えば使うほど利便性が高まる一方で、サービス・設定・アカウント・依存関係が増大し、管理すべき項目は指数関数的に増えていきます。
本記事では、この“複雑性”がどこから生まれるのか、そしてどのように解消すべきかを、実務視点で整理して解説します。
■ 1. クラウドが複雑になる5つの根本要因
まず最初に、複雑性が増加する典型的な要因を明確にします。
① アカウント(環境)が増え続ける
開発、検証、本番、PoC、チーム単位など…
クラウドの魅力である「簡単に作れる」ことが、同時に複雑化の引き金になります。
② IAM・権限モデルがプロジェクトごとに独自進化する
アクセス権限は本来、標準パターンで運用すべき領域です。
しかし、多くの組織ではプロジェクトの事情で例外が生まれ、権限体系が混乱していきます。
③ ネットワーク設計の“初期設計”が存在しない
クラウドのネットワークは柔軟であるため、設計思想がないまま進むと、後から一切整理できなくなります。
④ ログや証跡の取得基準が曖昧
クラウドでは「とりあえず動く」ため、ログ基盤が後回しになりがちです。
その結果、監査・セキュリティレビューでトラブルが頻発します。
⑤ 全体ガバナンスが設計されていない
プロジェクト単位での最適化が続くと、組織全体では統一感が失われ、複雑性がさらに加速します。
■ 2. 複雑性の正体は“構造がないこと”にある
結論から言うと、クラウド運用が複雑化する最大の原因は、
「最初に設計すべき“共通構造”が存在しないこと」です。
クラウドは自由度が高く、設計しなくても動いてしまうため、
構造化される前にサービスが乱立し、気づけば管理不能状態になるのです。
具体的な「共通構造」の例を挙げると以下のとおりです。
- IAMロールの標準モデル
- ネットワーク分離の基本パターン
- ログ出力・保持の基準
- 命名規則・タグ標準
- セキュリティガードレール
- モニタリング・アラート基準
これらが整っていれば、複雑性は最初から抑え込むことができます。
■ 3. 解決策は「標準化」と「ガードレール」の2軸
クラウドの複雑性を解消するためのアプローチは、大きく分けて2つです。
① 標準化(Standardization)で“ばらつき”を抑える
- IAMロールはパターン化して選ぶだけにする
- VPC/サブネットは用途別のテンプレート化
- ログは全アカウントで統一フォーマットで保存
- 命名規則・タグをプロジェクト横断で統一
「選択肢を減らす」ことで複雑性は確実に減ります。
② ガードレール(Guardrails)で“逸脱”を抑える
- AWS Configで誤設定を自動検知
- Security Hubで全体のセキュリティ遵守状況を把握
- CloudTrail/ログ基盤で操作証跡を自動収集
人の注意ではなく「仕組み」でガバナンスを実現する。
これがクラウド運用DXの中心となります。
■ 4. クラウド運用を“シンプル”に戻すロードマップ
● Step 1:As-Isの可視化
- 設定のばらつき調査
- IAMの複雑度評価
- ネットワーク依存関係の整理
- ログ出力状況の棚卸し
● Step 2:To-Beの再設計
- 標準IAMモデルの定義
- ネットワークの共通アーキテクチャ構築
- タグ・命名規則の策定
- ログ・監査基盤の標準化
● Step 3:仕組み化(Guardrails)
- Config/SecurityHubのポリシー整備
- 逸脱検知・自動修復の導入
- IaCによる再現性の確保
● Step 4:定着と継続改善
- 標準の定着(教育・レビュー)
- モニタリングの継続改善
- ガバナンス運営体制の強化
■ 5. まとめ ─ 複雑性は“努力”ではなく“構造”で取り除く
クラウド運用の複雑性は、スキル不足や努力不足が原因ではありません。
原因は、最初に「共通構造」が存在しないことです。
標準化とガードレールによって構造化されたクラウド運用が実現すれば、
複雑性は自然と薄れ、再現性と安定性の高い運用が可能になります。
株式会社FourthWallでは、クラウド標準化、ガバナンス整備、
ガードレール導入、運用DX、セキュリティ設計まで一気通貫で支援しています。
クラウド運用の“複雑性”にお悩みの企業様は、ぜひご相談ください。
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